理学療法士は歩ける様になればいいのか?

PTは歩けるようになればいいのか

目次

  1. 高次脳機能障害とは?
  2. 注意機能障害
  3. 遂行機能障害
  4. 記憶障害
  5. 社会的行動障害

高次脳機能障害とは?

厚生労働省の2001年の発表では、①注意障害②遂行機能障害③記憶障害④社会行動障害の4つの障害を診断基準に提示している。

今回はそれぞれの障害に対し効果的な認知リハビリテーションを紹介していく。

米国リハビリテーション医学会議は、認知リハビリテーションを「認知機能の改善を目的として行う体系的な一連の治療技術」と定義している。

具体的な治療方法として

  • 過去に学習した行動パターンの再構築 

(例:相手の表情から感情を推測する・危険を避ける為の行動等)

  • 障害を受けた神経系を補うための新たな認知パターンの構築

(例:記憶力低下に対する課題・注意機能低下に対するTMTや文字探し)

  • 外的補助や環境的補助を利用できるように新たな神経活動パターンの構築

(例:記憶力低下に対しメモ帳を使用する・自身では危険なため他者へ頼る)

  • 生活の様々な局面を改善させ生活の質を改善させるための自己認知障害への適応

(例:失敗しない環境設定・成功体験を積ませる)

注意機能障害

注意機能を刺激する直接訓練(Ⅰb、グレードB)

→注意機能の改善を目的として行う訓練よりも、訓練を通して注意機能低下を代償方法を獲得しようとする事に効果がある。さらに、代償方法の獲得が日常生活の改善にも影響する。

(維持期に移行した脳外傷に対する報告のため、外傷による保たれた病識が大きくかかわっている可能性がある)

単純な課題よりは複雑で注意の調節を要する課題が好ましい。

タイムプレッシャーマネージメント(Ⅰa、グレードA)

→情報処理能力が低下している場合に行う、作業開始前に時間を十分に確保する工夫

 訓練において課題にかかる時間を考慮し、認識するもの。これは3段階に分けられ

第1段階:自分は課題に対し時間がかかる事を自覚し

第2段階:作業に時間がかかる事を第3者に報告できる

第3段階:これらの方法を日常的に使用できる

(注意機能の向上を図るよりも、日常生活でのミスや衝突を避ける意味合いが高い)

遂行機能障害

①Metacognitive strategy training(Ⅰa、グレードA)

→自己の能力を自覚したうえで動作を選択していく訓練。日常生活動作練習中に各動作の目的と予想される結果と難易度、そして自身の身体機能からどのような動作を選択するべきか、必要な介助を求められる。

例えば、右片麻痺の方の食事動作練習では、目的は、料理を食べる事。結果は、手指巧緻性低下から食事を口まで運べない・嚥下機能低下で飲み込めない。難易度は、自立・見守り・介助。を自身で認知する。その上で、道具の選択(箸・フォーク・利き手交換)、食形態の選択、介助者が必要なのか自力で出来るのかを自身で正しく認知する事。

同様な訓練として、Goal management training(GMT)が挙げられる。この訓練は、ゴール設定が出来ない脳損傷患者に対し行われるトレーニングプログラムで5段階に分けられる。

第1段階:自分は何をするのか

第2段階:適切なゴールを選び設定する

第3段階:ゴールを部分的に分ける

第4段階:分けたゴールを理解する

第5段階:実際のゴールと設定したゴールを比較する

これは実際に手順を行わせる方法以外にも手順の書かれたカードを使用し訓練した場合にも効果的です。

記憶障害

①外的補助手段を使いこなせる訓練(Ⅰa、グレードA)

→記憶障害を補う手段としてメモ等の外的補助の利用は毎日の記憶の問題を軽減する上で効果的であるとするエビデンスの高い研究結果がある。また、記憶障害が軽度の場合は代償手段を習得する訓練に効果があります。

②失敗のない学習(Ⅰb、グレードB)

→代償手段を身につける、作業を覚えるなどの新規の学習を行う場合、失敗経験をならべくしないように配慮して学習を行うと、試行錯誤して学習するよりも習得が早い。この訓練を行うときの工夫は

(ⅰ)目標とする作業を明確にする

(ⅱ)作業を行う前に十分見本を見せる

(ⅲ)作業を行うにあたり並べく推測させないような設定にする

(ⅳ)誤りがあったら即座に修正する

(ⅴ)徐々に手掛かりを減らす

記憶障害が重度の場合は、この課題により日常の記憶による問題の軽減を期待できる。しかし、遂行機能障害は重度の場合は効果は少ない。

社会的行動障害

厚生労働省は社会的行動相がとして、①意欲・発動性の低下②情動コントロール障害③対人関係の障害④依存的行動⑤固執、以上5つを挙げている。

維持期での社会的行動障害は、意欲障害(20%)、抑うつ(18%)、不安(16.1%)、情動の障害(10%)、興奮状態(10%)となっている。こうした社会的行動障害は、退院後の社会復帰を阻害する要因として大きな要因となる。

  1. 認知行動療法(Ⅰb、グレードB)

→うつ・不安・怒りなどの心理的反応は誤った認知的会社にによって引き起こされることが多い。そのため、認知行動療法では、自分を取り巻く環境、第3者への対応、将来に対する否定的な認識、誤った解釈、等を修正し現在の状況に適切に対応できるように繰り返し指導、修正を行う。

  1. 社会技能訓練(Ⅰb、グレードB)

→ロールプレイ、モデリング、アンガーマネジメント、アサーティブトレーニング等の様々な方法を通して社会生活を行う上での技術を学習する

③Positive behaviour interventions and supports(PBIS:良好な反応を引き出すための介入と支援)(グレードB)

→従来の問題行動の修正は、フィードバックを通し行うオペラント条件付けに根差していた。しかし前頭葉眼窩内側面に損傷がある場合、フィードバックが問題行動の修正への効果が乏しい。前頭葉内側面損傷では、行動の開始に障害になっている等の意見もある。そのため近年では、問題行動に先行する契機となる出来事や環境に対し肯定的な反応を引き出すための配慮を行うPBISの効果が報告されている。

PBISの内容は具体的に

(A)評価:問題行動の背景となる環境要因、心理的要因と問題行動を引き起こす契機になった出来事、そして問題行動とその結果についての分析を行う

(B)問題行動の引き金となった出来事を避ける。

(例えば、作業が難しくイライラが見られる場合、作業を簡単にする。嫌いな人が近くに来るとソワソワする場合は席を遠ざける等の配慮を行う)

(C)コミュニケーションは肯定的な内容にする、小言や注意は言わない

(D)問題行動が起きないような行動を身につけるように指導する。

(例えば、イライラが生じる前に「わかりません、教えてください」「休憩させてください」と言えるようにする)

(E)患者様本人が意味があると感じることを行う。そのためには本人との打ち解けた意見交換が必要である

(F)困難な作業がある場合には、その前に本人にとって楽しい時間を持つようにする

(G)どんな作業や課題でも成功体験を取り入れる

(H)患者様に関わる全てのスタッフ(家族を含む)が共通の認識のもとPBISに参加する

(I)失敗のしない学習。失敗経験はむしろ問題行動を増加させる

(J)日常生活はならべくシンプルに分かりやすくする

(K)誰かの役に立つような役割を与える

(L)社会との交流を定期的に持つこと。例えばカラオケサークル、体操教室

(M)問題行動は本人が困惑していることを示すさいんであることを認識する。

④包括的・全人的アプローチ(Ⅰb、グレードB)

→多職種による包括的・全人的リハビリテーションは効果的であることが分かっている。 患者やその家族に対し医師、看護師、リハビリ食、ヘルパー、ケアマネージャー、職業訓練職などが身体面、認知面、心理面、経済面に対し焦点を当てることで、自己認識の向上や対人関係のスキルアップ、感情コントロールなどにも焦点を当てアプローチする。

まとめ

高次脳機能障害は理学療法士の分野ではないと考え、作業療法士や言語聴覚士に丸投げするのではなく理学療法を提供する際にも調べたことを活用しながら介入していきたい。

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